ピアノを家のどこに置く?
家づくりを考えるとき、ピアノの置き場所は意外と悩ましいものです。昔、建替えの際にたいへんな思いをしたことがあります。
当時、ピアノ教室も中学と同時に卒業していた娘たち、ピアノに向かうのは週に1~2回がいいところ。それも30分足らず。思い切って無くしてもいいのでは?といわれても仕方ないくらいでした。
しかしそれでも、我が家にとってピアノは親子で楽しむ大切な存在。処分するという選択肢はまったくありませんでした。
ただし、この「大きくて重い楽器(アップライトピアノ)」をどこに置くのか。生活のしやすさやインテリアとの調和を考えると、その存在感に頭を悩ませました。

リビングか、それとも別の場所か?
小さなお子さまが習い始めの頃なら、リビングに置いて「褒められながら弾く」のがなにより一番。上達しやすく、お稽古も続きやすいことでしょう。けれども、ある程度成長すると事情は一変します。
問題は「音」。家族がくつろいでいる時間に、練習の音を気兼ねなく鳴らすのは難しいものです。ピアノは上達とともに音数が増え、ペダルも加わって年々その音は迫力を増していきます。年に一度の発表会近くになれば、同じフレーズを何度も毎日練習します。弾いている本人は夢中でも、聞かされる側にとっては意外と大きなストレスになることもあります。もちろん、近隣への音漏れのひやひやもあり、もちろん早朝や夜には弾けません(消音ピアノという手もありますが、タッチが変わってしまいますね)
リビングに黒いピアノを置くと、空間が狭くなり圧迫感が気になります。ピアノ専用のスペースを用意するほど熱心にピアノに向かうわけでもない我が家では、適当と思えるピアノの場所を見つけられずに何日もプラン(図面)をながめました。

我が家の選択 ― 2階の廊下へ
重いピアノは一度置いたらおそらく動かせない。演奏する人だけが楽しむのであれば、「一人で落ち着ける場所」にある方が良いと考えました。
しかしプランには客間もなく、リビング以外となるとそれぞれの個室しかありませんでした。
そこで、共有物であるピアノは、思い切って床を補強し、2階の廊下に置くことにしました。娘たちの部屋の前に、2坪ほどのスペースを確保しました。
搬入はクレーンを使い、ベランダを取り付ける前の大きな窓から。ピアノ運送専門業者にお願いしましたが、想像以上に大変な作業でした。無垢床には今もその時の傷が深く残っています。建築時のピアノ下の床補強、これもどのくらい大丈夫なのだろうか?と未知の世界。2階のピアノ、一般的にはお奨めできない方法だと思いました。
その後の娘たちはというと、勉強の合間に部屋をちょろっと出てきては、数分だけ弾いて戻る、ということをよくやっていました。気分転換をするのにちょうど良い位置だったと言っていました。私自身も、時折、寝室に向かう途中でふと弾くことがあります。
もし廊下でなければ、きっと気軽に弾くことはなかったのでは?と思うと、この選択がちょうど良かったと感じています。

家づくりとピアノスペース
ピアノは存在感ある大きな楽器です。「習いたいから置きたい」と思い立っても、すぐに場所を確保できる家なんてそうはありません。電子ピアノなら多少コンパクトですが、それでも電源と壁の余白は必要。一般的なアップライトピアノでも2畳分の床スペースが必要です。
若いご夫婦が、家づくりの段階で将来の子どものためにピアノの場所まで想像できることはほぼないことでしょう。けれど、せめてリビングに1坪ほどの「余白」をつくっておくことをおすすめします。後からでは空いた壁すら見つからない、そういったお宅も少なくないからです。
たとえピアノを置かなかったとしても、そのスペースが無駄になることはほぼないと思います。お子様が小さなころはおもちゃ置き場やランドセルの定位置に。また、ご主人のリモートワーク用デスク、マッサージチェアを置くこともできます。多目的に使える「壁と空白」を残しておくと、いつも気持ちに余裕をもっていられます(場所がないってどうしようもないですから)。
あらためて我が家のリビングを見回してみると、逆立ちをする壁さえありませんでした(うちは壁があると、何かを置いてしまうようです)。
その後のピアノ=大切だけど使われないもの
建替えから十数年。調律も遠のいたピアノは少し寂しげに佇んで見えます。手放す気持ちこそありませんが、娘たちの新しい家でこのピアノがまた使われるならそれもあり。
ピアノは「30年サイクル」と言われています。これは、小さな頃にピアノを買ってもらい、その後、一時興味が離れても、結婚して自分の子供用に新居にピアノが運ばれてくるというサイクルだそう。年代物のピアノが、また毎日軽やかに弾かれる日が来ることを密かに願っています。
現実的にはベランダを解体しないと搬出できないのが難ですが、ベランダ修繕の時期と重なればそれもよいかなと。
そんなことを思いながら、今日もピアノの前を静か~に通り過ぎています。
広報 すずき