長く住み継がれてきた家には、その場所に流れる時間や、そこに暮らしてきた人々の気配が、静かに息づいています。
築100年を超えるような住まいに出会うと、こう思います。
この家が歩んできた時間を壊すことなく、そっと手を添えながら未来へつなげていかなくてはと。
必要なのは、すべてを新しくしてしまうことではなく、古さの中にある美しさや力強さを見つめ直しながら、今の暮らしにそっと寄り添う形へと整えていくこと。
築年数の経ったお住まいの依頼があるたび、そんな修繕の在り方、大切さを思い返します。

「古びた良さ」を大切に。築100年の住まいに向き合うということ
築年数が100年にもなるようなお住まいには、特別な魅力があります。
それは単に“古い”というだけでなく、その家に刻まれた時間、使われてきた素材、積み重ねられた暮らしの記憶が、ひとつの空間として形になっているということです。
そんな家を前にしたとき、「壊して建て直す」という選択ではなく、「手を入れながら、次の世代へ引き継いでいく」ことの意味を、自然と考えるようになります。
新築のようにしない、という選択

家をリフォームする際、「新築そっくり」に快適にすることは、工務店として決して難しいことではありません。むしろ、残すことより簡単で効率の良い仕事。ビフォーアフターが分かりやすく、お客様の満足度も確実に高くなります。
けれど、それは果たして本当にその家や住まい手さんの希望なのかと考えなくてはなりません。
長年風雨に耐えてきた梁や柱には、今では見ることの少ない太さや、自然素材の風合いがあり、時間が刻んだ静かな美しさがあります。
多少の歪みや傷みさえ、その家の歴史の一部として、かけがえのない存在のように思えてきます。
入政建築では、「残すべきもの」を見極め、その良さを活かした修繕も大切にしています。
おすすめ施工例:親の家を引き継ぐ、古民家リノベーション
営業の者が言ったことばですが、人間にもアンチエイジングという言葉があります。加齢による身体の機能的な衰え(老化)を可能な限り小さくすること、言い換えると、「いつまでも若々しく」という意味になります。
年齢なりの(不自然ではない)美しさを大切にするために、適宜お手入れなどを行うといったことだと思います。築年数の経った建物を築年数なりに手を入れて残すということにも置き替えられるように思います。

住まい手の想いに寄り添う仕事
地域工務店としての役割は、ただ古いものを直すことではありません。
その家に暮らす方が「どこを残したいか」「どこを変えたいか」といった思いを、ひとつひとつ丁寧にうかがい、形にしていくことだと考えています。
どこを残し、どこを変えるか? そのバランスには、家への敬意と、住まい手さん自身の暮らしへの想像力が必要です。
例えば、古材の使い方、断熱や耐震といった性能面との折り合い、職人の手仕事による仕上げなど多岐に渡ります。ひとつずつに時間こそかかりますが、その分、家も住まい手さんも無理なく馴染んでいけると信じています。

家とともに、時間を重ねる
家は、ただの器というだけではありません。
そこに暮らす人の記憶や、日々の営みがしみ込んだ、かけがえのない場所です。
その場所を、次の世代へつなげていくお手伝いをするという思いで仕事に向き合っています。
直して終わりではい。そこからまた新しい時間が始まる。そしていつか次の世代へと受け渡される。
そんな住まいづくりを、これからも丁寧に続けていきたいと思います。
広報 すずき